クックロビンのソロルです。掘り下げ…掘り下げかな？


【それは彼らだと私が言った】

与えられた量産型の無機質な部屋の、これまた殺風景で無味乾燥なベッドの上に、大柄な傷だらけの男がめいっぱい身体を縮こめて丸まっている。悪夢を見ているらしき男はがたがたと震える自身の身体を抱きしめて、荒く細い呼吸音の合間にぶつぶつと何事か呟いては白いだけのシーツとシャツを脂汗と涙でじっとりと濡らしていた。くぐもって聞き取りづらい言葉をどうにか解読しようとすれば、それが何かしらの懺悔であるとわかるだろう。
何度も骨が砕けては治ってを繰り返し、でこぼこといびつな形になった足がシーツを蹴って溝を作る。かつて幾度も剥がれたせいか、いつからか剥離しやすくなった足の爪の先が僅かに浮いていた。その指先がシーツにつんのめって、丸まって、また開く。ついた膝と足の先とで作られた深いシワの両端が引き伸ばされ、大きな身体がもがく度にベッド全体に溝が浅く広く広がっていく。
しばらくそうして丸まった身体が蠢いていると、ある瞬間にそれがビクンッ！と大きく跳ねた。呼吸が一際荒くなる。懺悔だったものは呻きに変わり、元より無かった意味が消えると共に苦悶があらわになった。低い唸りが徐々に大きくなるにつれ、自らの身体を抱きしめていた腕が解けてシーツを掴まえた指が白に食い込む。
断続的に強く跳ねる身体の内の内、心臓にまで焼き付いた苦痛がこうやって悪夢という形でリフレインする度に、男はベッドの上でのたうち回ることを繰り返していた。それが夢の中だと気付くことすら出来ない程にいまだ鮮烈な苦しみは、夢中の男が意識を失ってやっと終わる。
｢はッ…はっ、…ぅ、ぐ……っ｣
しかし、目を覚ましたからといって苦痛から解放されるという訳でもない。苦痛は既に男の精神に深く入り込み、離れるものではなくなってしまったからだ。
男はベッドを飛び退いて悪夢のダメージが残る覚束無い足取りで洗面所に駆け込み、喉を焼きながら胃液を吐き出す。固形物など何もないせいで度々喉につっかえて嘔吐くが、だからといって何が出せるわけでもなくただ苦しげに呻くのみ。しばらくそうして吐き続け、漸く吐き気がおさまった頃にはすっかり喉はささくれ立ったような痛みを主張していた。
ズキズキと痛む喉を押さえ、脳裏にこびりついた光景に震える右手が鏡に触れる。映っているのは、眉を下げ生理反応で眦に雫を浮かべた酷く情けない男の顔だ。鏡の中の見知った男に言い聞かせるように、瞼の裏に焼き付いた炎と血から大切なものを拾い上げるように、男はつぶやく。

｢……グレゴリー・ザハーロヴィチ・アルバトフ。君を殺したのは、一体誰だ？｣


───忘れること勿れ。